IT授業”実践ナビ 〜授業でITを使ってみませんか〜
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IT授業を実践している先生にインタビュー
滋賀県大津市立瀬田小学校教諭(現藤尾小学校教諭) ・石原 一彦
聞き手:和歌山大学教育学部附属教育実践総合センター  助教授・野中 陽一 事例へ
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授業の見せ場!
ビデオの活用
この授業は「タイムシフト」という機能で、自分の演技をすぐにモニターで見ることができます。これによって,子どもたちが自分の課題を自分で見つけて,練習に取り組むことができます。
また,モニターの前で子どもたちのコミュニケーションが生まれ、学び合う姿が見られるようになりました。
1.実践のポイント
野中: 最初に、この実践のポイントをお話しいただけますか。
石原: この授業で使ったものは2種類あります。ひとつは自分の飛んでいる姿をハードディスクに記録して10秒遅れでモニターに映し出す「タイムシフト」を使った学習診断システム、もうひとつはCEC(セック・・・コンピュータ教育開発センター)が公開している「教育用画像素材集」の跳び箱の模範演技です。
※CEC(コンピュータ教育開発センター)「教育用画像素材集」
http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/
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野中: この跳び箱の授業の目標はどこにあるのでしょうか。
石原: 自分の力にあった跳び箱を跳び、模範演技と比較し、課題がどこにあるのかを調べます。そして自分の課題を克服するための練習方法を選び、課題を解決するということが狙いです。従って高い跳び箱を跳ぶのが目標ではなく、自分に応じた飛び方ができるかということですね。
野中: 昔は回りで見ている友達が、今はどこがよかったよ、などといっていましたが、このITを使えば跳んだ直後に映像を自分で確認することによって課題が分かるということですね。
石原: 跳び箱というのは、かなり複雑な動きが一瞬にして行われるんですね。だから子どもたちに自分の課題を見つけなさいといっても難しい。そのアイデアとしてタイムシフトを使っています。
野中: この授業は体育館ですよね。体育館にそういう機材を持ち込むのは大変じゃないですか。
石原: 手間は手間なんですが、それよりもその場で見せることがポイントなので体育館だからこそ使うべきですし、効果も上がります。
野中: ビデオで撮って、授業が終わって教室に戻ってみんなで振り返る、ということでななく、それを見ながら繰り返し、それによって技を習得していくということですね。
石原: 子どもたちに見せる時間があるのであれば、もっと練習させて運動量を確保すべきだと思います。
2.IT活用の効果
野中: 実際に跳び箱の上達というのは見られましたか。
石原: 学習の仕方を学ぶという視点がでてきました。子どもたちにつかんでもらいたかったのは、自分の課題を見つけて自分なりに工夫するということですが、それなりに自分たちで工夫して全体のレベルが上がってきました。
野中: 自分の課題を見つける方法と解決するヒントを先生が提示するということですね。
石原: ひとことでいえば、学習の結果ではなくプロセスを大切にしたかったということです。
野中: この実践で先生が考えていなかったような子どもたちの反応は。
石原: 自分の技を見るというのは個人の学習ツールだったんですね。ところがモニターの前に子どもたちが集まって、あれこれ相談をし始めるんです。そこにひとつの学習の場が生まれていた。コミュニケーションツールとして機能していたのは想定外でした。
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野中: 実際に飛ぶのを見ることと、それが再現されてみんなで見るのとは違うわけですね。
石原: 意味が全然違います。1回限りの試技ではなかなか課題をつかつかめませんが、再現されると模範演技との相違点が明確になる。つまり跳び箱を跳ぶというひとつの学習課題を構造的に見ることができるようになります。
3.IT活用の背景
野中: 振り返りが重要で、そのために映像が効果的なのは分かりました。それを実現するためにはある程度の知識が必要だと思いますが、先生はどのように勉強されたのですか。
石原: 今はWEBなどで調べるのは簡単ですし、タイムシフトもそうですが、昔は考えられなかったことが突然実現可能になることもあります。そういう意味では、いろんな情報をキャッチするアンテナが重要ですね。
野中: ところで先生はいつごろからITを使われていますか。
石原: 20数年前に教職に就いたころから興味がありました。きっかけは、計算ドリルのソフトをさせたら、計算が苦手な子どもまですごく喜ぶんですよ。学習環境を与えるだけで食いついてくる。子どもたちはこういうことが好きなんだなと。
野中: そうですね、その当時計算ドリルソフトを入れて休み時間に開放しておくだけで、子どもたちは夢中でやっていましたからね。20数年やられてきて、こんなところに力を入れて行こうかなという点はありますか。
4.IT活用の課題
石原: 昔と比べて大きな転換点となったのはネットワークだと思います。以前は学習を支援する道具だったのが、ネットワークを日常的に使えることによってコミュニケーションツールになった。それには陰の部分もあるのですが。
野中: それはモラルとかセキュリティーですか。
石原: そうです。小学校に入ってきたときはITに関しては原始人のような状態ですから、そこから一人前のユーザーに育てていかなければならない。少なくとも卒業する段階では基本的なルールやマナーは身に付けさせたい。われわれの課題はそういうユーザー教育にもあると思います。
野中: 教科の目標を達成するためのIT活用であると同時に、子どもたちの活用能力を育てる情報教育という側面もあるわけですね。先生は日常的にもITを使われているそうですが、例えばどんな活用方法がございますか。
5.そのほかの活用例
石原: 校内LANを使って日常的に筆順の学習をしたり、百ますの計算などでも使っています。しかし教科でITを使う場面はむしろ減っていますね。
野中: つまり先生が効果があると思われるような使い方だけが残っていって、それが跳び箱や筆順、百ます計算などだと。その判断基準はどこにありますか。
▲野中先生 ▲石原先生
石原: 子どもたちの役に立つのかという1点です。何でも使えばいいとうものではなくて、子どもが何を求めているのか、あるいはその学習の何が課題なのかをしっかり見極めて、必要なものを与えるという教師の力量も必要ですね。
野中: それは学力であったり学習意欲や態度などを見極めるということですね。学習活動以外では使われていますか。
   
石原: 以前の学校では学級日誌をネットワークで公開していました。これは当番なのでいやでもやらなければならない。そうするとITだと意識することがなくなりました。また、不得意な子に得意な子が教えるなどコミュニケーションも生まれて、みんなのレベルも上がりました。これは学校の様子が分かるので、保護者の方からも好評でしたね。
   
野中: そういった日常的なところから入った方がスキルが得られるということですね。
   
石原: 子どもたちには必要なことだと教えていけば自然と身に付くんです。例えばコンピュータ室にしても、ただ開放したのでは大変なことになりますが、高学年の子どもにある程度の使い方を教え、君たちが低学年の子どもに教えるんだよ、この部屋のシステムは君たちが守るんだよといえば、自分たちで何とかするんですね。そすれば低学年の子どもたちのスキルは上がるし、管理している子どもたちには責任感も生まれ、学校全体のレベルが上がります。
6.活用のアイデア
野中: これからのIT活用に、何かアイデアはお持ちでしょうか。
石原: 2つキーワードがあります。ひとつは「ステルス」、つまり隠れるという意味です。教室でコンピュータが目立っていてはダメなんですね。中心はあくまでも学びで、その機材は陰に隠れていなければいけない。そういう発想が必要です。
野中: 子どもたちがコンピュータという意識を持たないで使っていて、結果的にそれが学習に役立つという活用ですね。
石原: もうひとつは「ユビキタス」、いつでもどこでも使える環境作りです。コンピュータは、携帯電話やPDAもそうですが、すでに形を変えてわれわれの生活に入ってきています。それを日常的に使うことで特別なものではないという意識を持つことですね。
野中: ほかの事例を参考にされることは。
石原: もちろん研究はしていますが、そのまま使うということはないですね。むしろ子どもたちの様子や教材を調べていく中でアイデアが生まれる。あとは日常接している先生方とのコミュニケーションですね。
野中: “IT実践ナビ”はご覧になっていますか。
石原: アイデアが欲しいときによく拝見しています。意外に役に立つのがほかの校種ですね。つまり縦系列が分かるんです。中学や高校でやっている事例を見ると、われわれはこうすべきだということが見えてきます。
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野中: 最後に、これからITを活用していく先生方にアドバイスをお願いします。
石原: 子どもたちは、これからネットワークやITを使わざるを得ないんですね。従って躊躇すること自体がおかしい。子どもたちの未来を切り開くことがわれわれの仕事ですから、その未来を見据えてぜひともITを体験させてあげてほしいですね。
野中: 本日は貴重なご意見をありがとうございました。
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