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はじめに

社団法人日本教育工学振興会会長  坂元  昂

IT環境を上手に活用して教育の成果を高めている地域、学校は、どんな条件の下で成立しているのだろうか。

世界でも、トップクラスのICT教育活用で知られている、シンガポールは、人口約450万人、広さは淡路島くらい、学校は初等中等を合わせて約350校という規模を活かして、教育ITマスタープランを国策とし、トップダウンで、ICTの教育活用を推進している。全教員がPCをもち、全児童が、PCを使って学んでいる。クラスターETO教育工学官が14名、各学校に国費で、配当されている教育技術支援教師の中から選抜任命され、分担して、ICT活用の指導をしている。研修も、管理職一般教員に義務づけられており、ICTは、日常的に、使われている。もう一つの世界トップクラスのICT教育国の韓国も、国策の下、国費を使って学校教育、予備校教育、家庭教育の環境整備、コンテンツ整備を図り、全教員、多くの児童生徒、家庭人にネットワークを通した教育を提供している。ITコーディネータを配置し、校務経営システムを完備し、教員の事務作業を軽減し、トップダウンで研修も義務づけ、効果を上げている。これらのアジアの先進国は、上意下達の文化を活かして、ICTの活用促進を実現している。地域や学校間の格差は比較的少ない。それに対して、英米は、上からの強制は、はるかに緩やかで、教育現場の自主性が大きい中で、ICTの活用を図っている。英国では、国策で多角的な基準、標準を指示し、その実行維持を評価する形をとるが、現場の地方教育局や校長の自立性が高い。ICTに対して、ICT環境やオンライン環境の整備維持、コンテンツ整備、活用などの公的基金が用意され、校務事務処理のシステムや研修も充実している。政府主導の下で行き届いた整備が行われている環境を上手に活かすのが、ITコーディネータや校長である。従って格差が生じる。米国も連邦政府は、国策でNCLB政策を打ち出し、ICT活用特別予算EETTを提供している。各学校区では、教育CIO等の活躍で、ICTがよく活用されている地域があるが、地域格差も大きい。

共通するのは、国策で、基本法を定めたり、公的資金を提供しICT教育推進を図っていること、教育CIO,ITコーディネータのような専門職を用意し、運営指導に当たらせていること、校務事務などの処理システムを整備し教師を支援していること、研修を管理職や一般教員に義務づけ、授業でのICT活用を義務づけていることなどである。

シンガポールや韓国のようなトップダウンの文化環境の国では、ICTが格差が少なく活用されているが、英米などのように、教育現場の自主性の強いところでは、政府の公的基金による手厚い環境整備の下でも、ICTに優先順位をおく地域か校長か否かによって、ICT利活用に格差が見られる。

日本でも、国策でe-Japan戦略、IT新教育改革などが展開し、公的資金も提供されているが、地方交付税の形をとるので、ひも付き予算の先進諸国と異なり、政府資金はありながらも地方でのIT予算の実行は、地域により大きな格差がある。英米のように、教育現場の自主的活用以前の状況が見られる。中で、先進事例として先進諸国以上の成果を上げている地域や学校があるが、そこでは公的資金がきちんと活用され、トップの理解とリーダーシップの下に、先進諸国の先進事例に引けをとらない運営がなされている。

本研究での訪問事例から明確に読み取れる。しかし、日本も、英米のような地方の自主性を尊重する教育経営がなされているので、現実の格差は、極めて大きい。本研究のアンケート調査の結果は憂慮すべき実態をはっきりと示している。

訪問調査した先進諸国の実態、国内先進地域、学校の実態を比較するとき、今後の地域、学校の特性にあわせたICT環境の将来像が明らかになった。

きめ細かな実態調査により、以前は見えていなかった様々な実態、問題点、特徴などが明らかになったのは、本研究の大きな成果といえる。

貴重な研究の機会をお与え下さった文部科学省、惜しみない努力でご協力下さった、研究者、研究協力者、事務担当者に厚くお礼申し上げると共に、得られた貴重な情報が今後の行政に具体的に生きることを願っている。

平成19年3月

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