4.1.2 調査結果のポイント
4.1.2.1 ICT戦略と環境整備
韓国では、日本の文部科学省に当たる教育人的資源部が積極的な情報化政策を進めている。県教育委員会に相当する市道教育庁への情報化に関わる予算配分は、当初、事業ごとに指定されていたが徐々に地方の自由度を高めている。
教育情報化は、第1段階(1999-2001年)のインフラ整備(児童生徒5.6人/台,2Mbps,教員1人/台,教授学習支援センター,EDUNET等)、第2段階(2002-2006年)のICT活用の普及(大学入試準備のためのEBS(Educational Broadcasting System) e-Learningシステム、教育行政システムNEIS(National Educational Information System)、小中学校のICT活用運営指針の運用等)を終え、第3段階に進んでいる。
2006年7月に発表された教育人的資源部による『学校革新と教育機会拡充のためのe-learning行動化計画』(※翻訳資料参照)が進行中であり、7つの推進課題をあげ、2013年度までの課題別予算や推進部署が示されている。
- 教育課程改編を通じたe-ラーニング活用度の向上、基盤構築
- 学校管理者および教員のe-ラーニング力量の強化
- 学習者中心のコンテンツ開発および質管理の体制構築
- 学校現場のe-ラーニングインフラの高度化
- 教育情報化の成果管理システム構築
- 参加と協力を基盤としたe-ラーニング支援体制の確立
- 総合的な広報を通じたe-ラーニングの活性化推進
教育課程については、ICT活用運営指針で、小学校では週1時間情報の時間を行うこと、すべての教科で必ず授業時間の10%以上ICTを活用することを規定している。中学校では「コンピュータ」、高校では「情報社会とコンピュータ」という選択科目があり、約70%の選択率である。実業系の学校では、100%実施している。
研究開発は、韓国教育学術情報院(KERIS)が中心となって行っている。メタデータを使ったコンテンツ共有プラットフォームEDUNETは、既に運用の段階に入っており、NEISも地方教育庁で運用が開始されている。現在は、2004年から取り組んでいるサイバー家庭学習(CHLS, Cyber Home learning System)の開発に力を入れている。
先導的な研究プロジェクトについては、教育人的資源部が21校を対象に研究指定を行っている。9校はu-learning、9校はサイバー家庭学習、3校はアップルの寄付によるu-learningの研究指定である。インフラの変化に伴って、パイロット的に研究を行なう必要があるとのことであった。
4.1.2.2 先進的な学校の状況
訪問した小学校、中学校の教室の情報環境は、リアプロジェクションテレビ、ノートパソコン、OHCで構成されている場合が多く、特別教室等にも設置されていた。バンベ中学校では、教卓にコンピュータやモニターが埋め込まれているものもあった。
教科でのICT活用は、積極的に行われている。市道教育庁のサーバには、KERISや指導教育庁が開発したデジタルコンテンツが用意されているが、教師の自作教材の開発も積極的に行われている。教師が開発したコンテンツのコンテストが行われており、ここでの成績が昇進につながるケースもあり、教師のインセンティブとなっている。
2006年7月に発表された教育人的資源部による『学校革新と教育機会拡充のためのe-learning行動化計画』(※翻訳資料参照)が進行中であり、7つの推進課題をあげ、2013年度までの課題別予算や推進部署が示されている。
ソッケ小学校は、アップルの寄付によるu-learningの研究指定を受けており、1クラス分のノートパソコンを必要に応じて一人1台活用する授業が行われていた。校舎内には、無線LANが整備されていたが、一斉にインターネットにアクセスする場合には、子どもが他の教室に移動して異なるアクセスポイントに接続した。
教師には、一人1台のコンピュータが貸与されており、NEIS上で学籍、成績等の情報や教員の人事関係,予算・設備などの校務情報を管理している。保護者も、子どもの成績情報等にアクセスできるようになっている。
4.1.2.3 ICTサポート体制と教育CIO
国の政策に基づいた教育情報化の具体的な施策は市道教育庁が担当しており、情報課長というポストが用意されている。学校の行政業務用システムNEISは京畿道教育庁においてはサーバ700台で運用されており、技術者が30人配置されている。市道教育庁の下部組織(市町村教育委員会に相当)にも情報教育担当者1名がおり、3人の技術者が配置されているとのことであった。
校務以外の教授学習に関するシステムに関しては、教育情報院が担当している。そこにも技術者が配置され、インターネット放送局も設置されていた。コンテンツ開発や教員研修はここで行われている。
学校の情報化推進は、初期の段階から、校内のICT活用教育部長(教員)が中心となって行われてきた。現在、各学校においてe-CIO(Educational Chief Information Officer)を決めようとしており、教頭にその役割が位置づけられようとしている。教育庁においては、副教育監(副教育長)がe-CIOの役割を務めることになるようである。(『学校革新と教育機会拡充のためのe-learning行動化計画』P21) なお、小・中学校には、兵役の代替措置で配置されている技術サポート担当者がサーバ管理等を行っている場合があった。
4.1.2.4 教員のICT活用指導力育成
教員研修のカリキュラムや教材開発等はKERISが行っており、16の市道教育庁が研修を実施している。情報教育、ICT活用は教員の能力に依存するので、研修が重要であると考えている。毎年25%の教員に研修を行い、すべての教師が4年に1回研修を受けるようにしてきたが、これを来年度以降は3年に1回程度に引き上げ、さらに研修を強化する予定である。しかし、教員数が多い京畿道教育庁(小中高合計1911校、教員数約84000人、生徒数約200万人)では、年に9%程度の教員にしか研修を実施できないとのことであった。
京畿道教育庁では、教員のICT能力判定試験を実施しており、1年に6000人まで受験できる。独自の事業だが全ての教育庁で行われていると思われる。合格率は約70%で、教員のレベルの底上げという意味合いが強い。内容は、実技を中心とした試験である。(※翻訳資料「2006年度版教員のICT能力判定試験問題」)
管理職になる人にはICTに興味を持ってもらうことが重要であるとの考えから、管理職への昇任試験にもICTの試験がある。ICT能力判定試験の点数が良いと、その試験が免除される場合もある。
KERISによると、教員のICTスキルの基準としてISST(ICT Skill Standards for Teachers)がり、この他に教科でのICT活用に関する能力基準もあるとのことであった。現在、KERISではデジタルリテラシーの基準を作成中であり、これをもとに、生徒や教師の評価を行なう計画がある。